アニメの背景を描く場合
下図のようなレイアウトの指示に従って作業します
では、下図のような指示で背景を描く場合
どのような背景が考えられるでしょうか?

この記事では僕が美術を担当した
『とびだせ上越 予告編』最終カットを題材にして
なんで、こういう背景にしたのか?
根拠と思考プロセスを解説します
へぇ~そんなこと考えて背景描いてるんだ~と
背景を描くときのこだわりを知ることで
普段絵を描くひとも描かないひとも
今までと違った視点で予告を楽しんでもらえるようになったら嬉しいです
【とびだせ上越 予告編】
「あたしの桜に触るな、ニンゲン!」
「桜と人は、深い縁で結ばれているわ。あなたが思うほど無縁ではないのよ!」いつものシリーズ(https://t.co/peN42yPvpr)とは少し違った毛色でお届けします。ご期待ください。
クラファンはコチラ🔻https://t.co/JwXukYi4Rg pic.twitter.com/CovXmDrGm0
— 柏崎アニメスタジオ (@Kashiwa_AnimeST) February 1, 2025
この背景での「ゴール」は何?
まず最初に
この背景で表現しなければいけない「ゴール」を決めます

この絵での「ゴール」は何でしょうか?
「桜を目立たせること」です
まず目的となるゴールを決めて
ゴールを達成するための手段を考えます
明暗や配色、タッチ、テクスチャー、画材など多くの手段の中から
「桜を目立たせる」というゴールを達成するための
最適な手段を選びます
この段階で目的と手段を明確にしておかないと
仮に思ったように表現できなかった場合に
「適切な手段を選択できなかった」という手知識不足や手段の選択ミスなのか
「手段は合っているけど技術不足で表現できなかった」のかというように
原因を特定しにくくなります
目的と手段が明確にしておけば
「技術的にはまだまだだけど配色やタッチで
表現できていなければならないものは表現できているからOK」
という判断ができるようになります
思いつく案を小さく描き出してみる
この絵の場合は
背景で描くのは「空」だけです
桜の色や形、動きはコントロールできません
形や動きといった桜の絵はアニメーターが描きますし
桜の色は色指定さんが決めます
背景描きにコントロールできるのは「空(と雲)」だけです
それを踏まえて
仮に桜を白っぽいピンクとして
どうすれば桜が目立つか
小さな画像で配色を考えます

今回、僕が思いついたのは上図の3つ
この中から一つを選びます
何となく選びました
では説得力に欠けるだけでなく再現性もなくなってしまうので
根拠を示して判断します
根拠
色のコントラストを使って目立たせる(明度・色相・彩度)
何かを目立たせるときに
まず思いつく方法が色のコントラストを利用することです
色のコントラストは下図のように
明度・色相・彩度のコントラストがあり
隣り合った色のコントラストが強い方が目立ちます

「違い」を利用して目立たせる
「1つだけ他と違うもの」も目立ちます
下図のように
- 1つだけ細い
- 1つだけ丸い
- 1つだけ細かい(シルエットが複雑、細かい描き込みなど)
など色々あります

候補の中から1つに決定
- 明度のコントラスト
- 色相のコントラスト
の2つの理由から
青空で桜を囲むようにする
また
- 細かいと目立つ
という理由から
雲の形状が複雑だと桜よりも目立ってしまう可能性があるので
雲は桜よりもシンプルな印象になるようにすることにしました
以上の理由と前後カットの絵の繋がりなどを考慮して以下のように決定

まとめ
これが正解というわけではありません
他にも色々な考え方があると思いますが
今回は僕の思考過程をまとめました
- もし自分だったらどう描くか?
- 考え方を真似して描いてみよう!
この投稿をきっかけに
アニメーションという映像に対して
新たに興味を持ってもらえるといいな~
と思っています
アニメ作品は
アニメーター、背景、色指定、撮影、演出など
色々な立場の人が知識を総動員して
画面を作ってます
何を根拠にして
映像作品の画面を作っているのか?
色、カメラ、構図、形、心理などの
基本が1冊にまとまっているのがこちら
「Vision」 ストーリーを伝える:色、光、構図
ハンス・P・バッハー(著)
サナタン・スルヤヴァンシ(共著)
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