僕は「おいしかった」料理を写真に撮って
後日、絵を描くことがあります
とくに「おいしい」と思えなかったら描きません
なぜか?
「おいしい」と思えなかったものは描けないんです
僕は、「おいしい」と思ったら
他の店で食べた料理との違いや特徴など感じたことをメモして
色、タッチ、画材など
どういったテクニックを使えば
その「おししい」を表現できるかを考えます
サクッ、パリッといった食感を表現するときはシャープに塗りわけて硬そうに表現したり
筆を横に寝かせて描くことで画用紙のザラザラを利用してかすれさせて
サクッとした表面を表現します
モチッなら境界部分にグラデーションをかけたり
シャープにならないように何段階かの色調で塗り分けたりといったように
一筆一筆、味や食感を思い出しながら描きます
また、色については
麻婆豆腐のように赤い食べ物でピリッと感じたら
赤の中にビリジアン(緑)をたらし込んだり
混色して影色を作ったりして
色相のコントラスト(反対色)で刺激を表現します
全てに意味を込めているので
常に「おいしい」をイメージしながら
色や筆致がイメージから外れていないかをチェックしながら描き進めることができます
しかし「おいしいと思えない」場合
味に特徴や感動が見当たらないので
それに対応するテクニックが思いつきません
食べていない料理の写真を渡されて描いてくれと言われても
写真を模写することしかできません
おいしそうに見えるように綺麗に描くことしかできないんです
描きあがった絵、それ自体に大した違いはないのかもしれませんが
描いているときの脳みその使い方が全く違います
「おいしい」ものを描くときは
一筆一筆に意味を込めて「おいしい」の説明を積み重ねているので
完成した絵の良し悪しに関わらず
自信をもって【自分自身の「おいしい」を描いた】と言えます
しかし
写真を見ただけで描いたものは
画面内に汚い色や質感に見えない筆致など
「おいしくなさそうな要素」が入り込まないように描いているだけなので
技術力の良し悪しでしか評価できません
「上手い」か「下手か」、「きれい」かどうかです
「おいしそう」かどうかといった評価ですらありません
こんなことを考えているのは自分だけなのか?と思っていたら
俳優の松崎悠希さんのYouTubeで次のような動画がありました
7分40秒~のチーズバーガーの話が分かりやすかったんですが
大雑把に説明すると
セリフを言う前に「そのキャラにとってチーズバーガーのチーズはどんな存在か」を
明確にイメージしてから発すると
明確なイメージのチーズという存在になるので説得力を持つ
ということです
この動画を見て
僕は「おいしい」食べ物の絵を描くときは
ハイコンテクスト化をしていたんだなと腑に落ちました
またシンボ ケンタさんは説得力についてXで次のようにポストしていました
そういえば、大学時代に教授から絵における「Confidence」という概念について教えてもらったことがある。
例えば自信をもって発せられた言葉って説得力があってなぜか信じちゃう、みたいなことがあると思います。それを絵でやる、という感じ。… https://t.co/ekEWCsZCPQ pic.twitter.com/TxvStAY2hL
— KENTA SHIMBO(シンボ ケンタ) (@Kenta_lifeinsf) October 6, 2024
これ、補足なんですが先が丸い鉛筆を使えばConfidenceがある絵を描けるという話ではないです!
そもそも僕が線に苦手意識があって自信なさげな線になりがちなので強制的に強い線を描く方法として先の丸い鉛筆を使ってみてる、という事です。
ちょっと言葉足らずな気がしたので一応。 https://t.co/qVw35Q0Otl
— KENTA SHIMBO(シンボ ケンタ) (@Kenta_lifeinsf) October 7, 2024
「自信を持って引いた線は説得力を持つ」ということです
「自信」という部分を詳しく知りたいところですが
おそらく松崎さんの「セリフのハイコンテクスト化」同様
「明確なイメージ」、「意思や意図」といったところでしょう
アニメーションの背景を仕事で17年、その後2年近く経つので
職業として20年近く絵を描いてきましたが
まだまだ全て「おいしい」を描くように
明確なイメージと技術を対応させて描けているわけではありません
・「カッコいい」「好き」
・知識として「こうでなければいけない」
など
1枚の絵の中でも思考が統一されていなくてチグハグなものも多いです
しかし少なくても「おいしい」を描くときは
ハイコンテクスト化やConfidenceがある絵を描けている自覚があります
僕は、2年前くらいにやっと
「上手い」「下手」とは違ったハイコンテクスト化やConfidenceといった
判断基準を手に入れることができました
これは
・ラフであっても明確な意図があれば伝わる
・未熟であっても、人それぞれ説得力のある絵は描ける
ということだと思います
もちろん知識がなければ自分のイメージに対応したテクニックは思いつきませんし
人体の知識や描いた枚数が少なければ
人体クロッキーで明確なイメージをもって線を引くことは難しいでしょう
経験が浅いとハイコンテクスト化やConfidenceと言われても理解できないと思うので
知識や画力といった経験は最低限必要です
「技術的に上手に描く」ことがわかりやすいので
経験が浅い人ほど技術習得一辺倒になりやすい気がします
しかし忘れてはいけないのが
画力、知識はイメージを伝えるための手段だということです
「画力、知識を身につけた」先に「明確なイメージを持てる」ようになるのではありません
「明確なイメージ」を伝えるために「画力、知識で補強する」必要があるんです
セリフのハイコンテクスト化の動画で技術論は出てきませんでした
まず明確なイメージがあれば画力や理解力に相応の説得力は持てるということです
絵を描くときに自信をもって描けていますか?
人によって頭の中に明確なイメージをもって描けるのは
特定のモチーフや画材
写真参考ではなく実物を見て描くときや
誰かから「お題」を出された時のアイデアを形にするときなど
バラバラでしょう
他者と比べて「上手い」から「自信がある」といった相対的な自信では
そのコミュニティー内でしか成り立ちません
クラスで1番絵が上手くてもプロになったら1番絵が上手いとは限りませんから
自分自身が「自信(根拠)をもって線を引けているかどうか」が問題です
絵に自信や説得力がないという方は
明確なイメージを持って描けるのは何か?
どうしたら明確なイメージを持って描くことができるか?
について1度考えてみてはいかかがでしょうか
「上手い」「下手」とは違った判断基準で描くことができるようになると
もっと描くのが楽しくなりますよ
ちなみに僕は食べ物の絵を「おいしそう!」と褒めてもらうことが多かったので
他の絵を描いてるときとの違いって何だろう?と考えたら
自分なりのハイコンテクスト化やConfidenceに気付くことができました
もし絵に自信や説得力がないという方は
絵を見てもらったときに褒めてもらえることに注目してみると
自分では気づけなかった自分に気付くことができるかもしれません